NICT入所のきっかけ
一般企業への就職とNICTでの研究者の道、どちらに進むか悩んだ末に
大学4年生の時に各研究室の研究テーマ紹介があったのですが、ちょうどNICTの研究員から大学に移って来られた吉岡先生によるNICTERの研究紹介を見て、サイバーセキュリティ分野に興味を持ちました。その後、吉岡先生の紹介でNICTの研修生になり修士課程にも進みましたが、実は、大学に入学した当初から研究者の道に進むことはまったく考えていませんでした。修士1年生の冬には就職活動もはじめていましたし、一般のIT企業の採用説明会にも通ってどんな仕事や会社が良いかと色々悩んでいました。そんなとき、今の井上室長や中尾主管研究員からNICTで働くことに興味はないかというお話を頂いて、研究者というキャリアが選択肢に上がってきました。
同級生の多くは大手ベンダーやSier、通信事業者などの一般企業への就職活動を進めている中で、研究者というキャリアは当時はとても特殊に感じましたし、正直、自分が研究者としてやっていけるのか、ちゃんと食べていけるのか、など色々不安に思ったのを覚えています。大学の研究室には博士課程に在籍中の先輩が何人も居ましたが、皆さん博士を取るのに苦労されていて厳しい世界に見えたのもあります。
NICTの公募の締切が近づいていたのであまりじっくり悩む時間はなかったのですが、色んな方に相談させてもらいながら最終的には研究者としてのキャリアに進むことを決心し、博士課程に進むと同時にNICTの研究員となりました。研究者の道に進んで色々ありましたが、今ではその選択は間違ってなかったかなと思っています。
仕事内容
いち研究者としての研究活動と研究室の運営業務のバランス
自身の研究テーマとしてはダークネット分析やマルウェア解析以外にも、最近だとユーザブルセキュリティなど幅広く興味を持ったテーマに取り組んでいます。幸運なことに海外の一流の研究者と一緒に研究する機会もあり、上手く互いの強みを活かして研究成果に繋げられるように心掛けています。特にIoTセキュリティについては、私は国内の脆弱なIoT機器を見つけて注意喚起するNOTICEプロジェクトのマネージャーも兼任していますので、今後増々増えていくであろうIoT機器のセキュリティをいかに確保していくかは、研究テーマとしても重要な課題だと考えています。
一方で、副室長としての研究室運営業務も割合としてはそれなりにあります。とはいえ、今でこそサイバーセキュリティ研究室は60名以上がフルタイム勤務していますが、私が入所した当時は10名ほどの小さい部署で、研究だけやっているわけにはいかなかったので運営業務も慣れてはいます。入所した翌月には私と同期のはずの総務省新規採用者への研修講師をしてたりしました。
私の仕事の軸は「対外的に評価される研究成果を出す」と「人の役に立つ」の2つです。前者の研究成果だけで自己肯定感を得られれば理想ですが、世の中には自分より優れた研究者は山ほどいます。ですので、身の回りの範囲を含めて役に立っているという実感を得ることはモチベーションを維持するために重要だと思っています。そのため、全体でカバーできていない仕事は積極的に拾っていくスタンスで日々の仕事をしています。
今後の目標
「程々に暇な環境」の実現が研究成果の最大化につながる
NICTに入ったばかりの頃にある人に言われた「研究者は、ある程度暇じゃないと良い研究はできない」という言葉を最近よく思い出します。研究室の規模が大きくなるということは必然的に予算規模やプロジェクト数も増え、書類仕事や調整仕事なども多くなります。また、純粋に研究者が自由な発想で行う研究だけでなく国研として国の政策方針に合わせて取り組まないといけない研究テーマもあり、やらなければならない仕事が増えます。ただし、皆が日々の業務に追われている状況では良い研究成果は出ないと思っていますので、特に若手の研究員・技術員が程々に暇になって自由な発想で研究開発に専念できる、そんな環境を実現するための雑用係も自分の仕事だと思っています。
もちろん一人の研究者として難関国際会議にコンスタントに通せるような第一線の研究者になるという目標も目指しつつ、NICTの研究者がのびのびと研究をした結果、サイバーセキュリティ分野の最先端組織としてNICTが広く世界的に認知される、そんな未来を目指しています。